ウクライナの首都キーウ近郊で多数の民間人の遺体が見つかったことが世界を震撼させています。バイデン大統領はロシアのプーチン大統領を「戦争犯罪人」と名指しで批判しています。「戦争犯罪」はどう裁かれるのか?そして日本の果たす役割とは。TBS報道局の後藤俊広政治部長が解説します。(聞き手:斎藤哲也キャスター)
■ゼレンスキー大統領「第2次世界大戦以降最も恐ろしい戦争犯罪」 国際社会は「戦争犯罪」をどう裁くのか?
ーー「戦争犯罪」の歴史について
ゼレンスキー大統領も国連の演説で「第2次世界大戦以降、最も恐ろしい戦争犯罪」と訴えています。果たして、こういった状況を国際社会はどう対応するのか、戦争犯罪をどう処断できるのか考えてみたいと思います。戦争犯罪について歴史を振り返ってみたいのですが、国際法で明確に処断したのは、第2次世界大戦後に行われたの“東京裁判”と呼ばれる、日本の戦争指導者を処罰した「極東国際軍事裁判」と、ドイツのナチスの幹部らに対して行われたニュルンベルク裁判です。“東京裁判”については、映画のドキュメンタリーや書籍など、いろいろな形で伝わっていますが、「平和に対する罪」「通常の戦争犯罪」「人道に対する罪」3つの罪について問われた裁判でした。開戦時の首相であった東條英機元総理や廣田弘毅元総理ら7人が絞首刑となりました。その後も紆余曲折はありましたが、国際社会でどう裁判していくのか進化してきました。1990年代の旧ユーゴスラビアが解体される過程での独立運動や民族紛争に軍事介入して、多数の住民を死に至らしめたとして、セルビアのミロシェビッチ大統領が「人道に対する罪」で訴追されました。この時は旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所が設けられ審議が行われたのですが、ミロシェビッチ大統領は体調を壊して収監先で死去してしまいました。日本国内であれば裁判制度は国内では統一されているが、国と国をまたぐ形で裁判制度は普遍的なルール作りや誰が裁く主体となるのか、ずっと議論されてきたと思います。
■プーチン大統領を処断することは可能か?壁となるものとは・・・
ーーバイデン大統領が、プーチン大統領を「戦争犯罪で裁く」と明言していることについて
21世紀になって現在は、ICC=国際刑事裁判所という常設の国際法廷があります。この裁判所の役割は「国際社会全体の関心事であるもっとも重大な犯罪、すなわち集団殺害犯罪、人道に対する罪、戦争犯罪に問われる個人を訴追する」つまり戦争犯罪の中でも、個人が犯した罪も処断できるとなっています。法制度的に処罰することは可能ということになります。去年の段階で123の国や地域がICCの設立する条約を締結しています。実はロシアとウクライナは締約国ではないのですが、犯罪が行われた国が非締約国であっても、ICCの管轄権を受諾した場合は捜査ができることになります。実際、ICCの主任検察官は3月、ロシアのウクライナにおける戦争犯罪の捜査を開始することを発表しました。オランダのハーグには裁判所がありますが、そこに戦争犯罪を犯したであろう人が来なければいけない。果たしてそこにプーチン大統領が出頭してくるのかということになります。ミロシェビッチ大統領も、国内の選挙に敗れて政権を失った後に、自分の不正蓄財などの罪で国内で逮捕された。そこから身柄を引き渡されるというプロセスを辿っていますから、過去の歴史の法則を見てみますと、その国で当事者が実権を失った、あるいは政権から遠ざかった状況でなければ裁判の場に召喚されることは難しいと思います。
■一筋の望みはネットがもたらす力か 日本をはじめ国際社会が出来ることとは
ーー国内で大きな動きが出てくると状況が変わっていくのでしょうか。
今の状況で言えば、なかなかドラスティックに変わることは想像しづらいですが、ただ一つ言えることは、今回、なぜ短期間で「戦争犯罪」という概念が広まったかというと、やはり映像の持つ強みだと思います。また、ネット社会ですから、映像が全世界に流れます。ロシアが戦争犯罪に関わったのではないかという見方が強くなっていく中で、国際社会は向き合っていかなければならない。これからロシアが何らかの形で停戦合意を結んだとしても戦争犯罪に対しての説明を求め、責任を求めるという姿勢は継続すると思います。
ーー日本をはじめ国際社会が出来ることは
まずできることの1つとして、いま行っている経済制裁があります。相対的な見方がありますが、8年前のウクライナの(クリミア)併合がありました。この時の経済制裁と比べて、明らかに金融面、輸出入の面でも厳しいなとみています。ロシア国内・経済にとっては、かなりダメージが大きいのではないかと思います。もう1つはミロシェビッチ大統領で触れましたが、国内に何らかの変化がなければと思います。私はソフトパワー、戦争は武器というハードパワーが主になるが、今の戦争はいろいろな情報戦であったり、その国、当事者あるいは国民住民にどういったメッセージを発していくかという部分が重要になっている。日本はソフトパワーを使って現実はこういう風なことになっている、ウクライナで進められているんだよということを、丹念に伝えていく。それもいろいろな形のチャネルがありますから、そう言ったものを進めていくことが必要ではないかと思います。
ーー草の根運動的なものが浸透していくこと、結果的にそれが事態を止める事に繋がるのでしょうか。
一筋の望みかもしれませんが、まずはそういったことをやるべきではないかと思います。政府や政治家だけでなく、文化人が色々な形で歌に託したり作品に託しても良いです。そういった形でロシアの一般国民市民に現状を伝える。そういったことを丹念に愚直かもしれませんがやってみる価値はあると思います。それがやはりネット社会のアドバンテージだと思っています。意外なところから世界的に広がる、何かのブームの時も意外なところから広がることがありますから、国際社会がロシア国民に対してどういう風にメッセージを伝えていくかということが問われていると思います。
(06日20:11)
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