Words:
辻 征夫 「河口眺望」1993年11月
そしてきみたちが寡黙な影となって
そしてきみたちが寡黙な影となって
さらに上流へ行ってしまってから
もちろん僕も竿をのべて
いくつかのポイントは探ったのだが
ひとりになると激しい水音の奥に
知らないひとたちのさわめきが混じりはじめ
ぼくは現実の川を見ているのか夢を
見ているのかわからなくなってしまったのだ
青い羽の鳥が暗い木の枝から
水に突き刺さり魚をくわえて飛び立ったが
そのとき鋭い痛みを感じたのはぼくが
すでに川になっていたからだろうか
普段のぼくなら鳥は一篇の詩を
創り出そうと尖鋭化したぼくの意識で
魚は意識下でうごめくものの断片
ぼくの夢の原形だと語るところだが
一瞬心臓を直撃した悲哀は意外におおきくて
ぼくは竿とびくを川原に置き
渓流の石のあいだに沈めておいた
ウィスキーの小壜を取り出した
育ちすぎた野生の独活は固くて食べられないが
齧ると鮮烈な香りが口中にひろがり
ぼくはきわめて現実的な姿勢で魚をもとめて
水を見つめているにちがいない二人の友
ぼくを渓流に誘ってきた
nakagamiとyagiのことを考えながら
乾いたおおきな石に腰をおろした
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